フリーランスでも契約書(覚書)を簡単に。

簡単に、お金をかけず、責任は明確に。

クリエイターやアーティストにとって、自分の財布を潤すための単純な方法は、「作品を買ってもらうこと」だと思います。ところが、契約には何かとトラブルがつきもの。例えば、相手方に支払い能力がないにも関わらず契約を結ばれるケース、不当に安い価格で著作物を買い叩かれるケース、支払いも確認し作品も渡した後で作品に苦情を言われるケース…。

そこでこんなシステムを作ってみました。自分のやること・守りたいもの、相手にお願いしたいことをまとめて、手間なく契約書を作ってみてはどうですか?考えられるトラブルケースのうち、責任の所在を契約書で明確にすることで不要なトラブルを避けられるかもしれません。特に、新規顧客との取引が多いクリエイターの場合、こういったものがある事で信用にもつながると思います。今後改善をしていくので、使用しての感想を頂ければ幸いです。

こちらのリンクからもアクセスできます。

https://forms.gle/ErwQnpxhMuB5CaPr5

フォームの使い方

Googleフォーム上に、譲渡者(著作物を作る人)と譲受人(著作物の権利を希望する人)との間で決定した事項を記入していただきます。フォームに求められる内容は、著作権譲渡に関する契約時に決めておかなければならない事項、および決めておいた方が良い事項を記載しています。事前にこのフォームを使ってみて、「この項目は決めておきべきなんだな」と予習していただければ、今後役に立つ時が来るでしょう。


手順1

  • メールアドレス
  • 覚書の当事者(著作者)(覚書内の「乙」)
  • 覚書の当事者(依頼者)(同じく「甲」)

当事者名は必ずしも本名でなくても問題はありません。ペンネームでも法律上は問題ありません。

(ただしペンネームなどの場合は、そのペンネームがとある一個人を指すことができなければなりません。遍く全ての人が判断できる必要がありませんが、特定の個人を連想できないペンネームは法律上無効ということですね)

手順2

  • 著作権の担保

著作権を主張するのに特に手続きは必要なく、原則として著作物が作成された段階で、著作権は成立します。ですので作成された著作物について、基本的には著作者がすべての権利を有している(著作者が著作権者である)と考えて良いと思います。

ですが、一部例外があります。例えば、著作物に他作品からの引用が含まれている場合です。この場合、その著作物はその他作品(一次創作物)から見れば、二次創作物ということになります。この場合、一次創作物の著作者(著作権者)には二次創作物に対しても、二次創作物の著作者(著作権者)と同等の権利が発生します。

仮に他作品からの引用を含んでいる場合は、一次創作物の著作者(著作権者)からも、著作権譲渡に関する契約を結んだ上で手続きを進めなければならず、手続きは非常に煩雑に、かつ権利の保持者が複数上がることで、事態は複雑化しかねません。その点には十分注意が必要です。

手順3

  • 瑕疵担保責任
    • 作品と著作権を譲渡した後、依頼者の側から「実際使ってみたらダメだったから、お金返して」と言われる事を防ぐのが目的です。
    • 瑕疵とは本来、傷や欠陥を指し、依頼者が期待するような状態や性能でないことを指します

本来は、依頼者のニーズに合ったものを著作者が制作・提供できればベストなのは間違いありません。ただし、依頼者が抱いていたイメージと著作物が合致しないことは往々にしてあり得るものです。

そこで、瑕疵担保責任については当覚書では、依頼主は著作者に対し問わないこととしています。とは言え、そもそもこういったトラブルは、制作前の段階から十分なイメージのすり合わせ、打ち合わせ、点検、そして制作後のサンプル確認等を通じて十分に防ぐことができると考えます。瑕疵担保責任は覚書上で回避できますが、それ以上にこういったトラブルがそもそも起こらないように、依頼主・著作者の双方で取り組むことが大事です。

手順4

  • 著作財産権
    • 依頼者に譲渡する権利を選択します。

著作権の譲渡とは、概ね「著作財産権」の譲渡を指します。著作財産権と一言に言っても、その中身は非常に細かく枝分かれしており、一つの作品に関して複数の著作権者が存在することもあり得ます。

http://www.office-isogai.com/article/13964302.html

著作権譲渡に関する契約では、概ね全ての著作権を譲渡する事が一般的です。ですが、個別に譲渡するケースも考慮し、「一部のみ譲渡する」を選択した場合は、次のページで譲渡する権利を個別に選択できます。

手順5

  • 著作者人格権

著作者人格権は、著作財産権とは別の考え方です。別離しているからこそ、例えば著作者が自分の希望する時に作品を取り下げたり、改変したりすることができます。著作者人格権については、譲渡できないものと日本では定められています。その為、著作者は著作者人格権について「行使するかどうか」を選択する形になります。また、著作財産権の時と同じく、著作者人格権にも6つの権利が含まれています。もちろんこれらについても、個別に行使するかしないか態度を決めることができます。

依頼者の側からすれば「いつ取り下げられるか分からない」著作物に大金を支払う気にはなれません。とは言え、これも著作者が選択できる立派な権利の一つです。もし、著作者人格権の行使について留保する場合は、契約金額を下げる、もしくは追加の取り決めを行うなど、ある程度の譲歩が必要かもしれません。

手順6

  • 著作物の用途

この項目の目的は、著作物の価値を正当に評価する事にあります。依頼者に著作物の用途を限定させる事によって、その著作物の著作権が不当に安く買い叩かれる事を防ぎます。

例えば、Twitterのバナーイラストとして使用するという話でイラストを描き、8,000円と引き換えに著作権を提供したが、実際は先の用途に加え、素材集として販売もされたというケースが考えられます。この場合、(クオリティにもよりますが)8,000円が本当に見合った価格かどうか、という所には疑問が残ります。

権利を譲渡する前に予め用途を限定しておくことで、それ以外の用途で使用する場合は改めて契約を結び価格を再設定するなどすることで、著作物の本当の価値に見合った金額を都度都度設定することが可能になります。

手順7

  • 文化庁への登録費用

まず、著作物が作成された段階で著作権が発生し、著作物の著作者が著作権者となります。これ自体には第三者や機関の認証が必要なわけではなく、著作権はあくまで自然発生するものというのは覚えておいてください。

ただし、著作権に関する法廷闘争が発生した場合、相手が自らの著作権を侵害している事を論述する為に、自らが著作権者であることを立証しなければなりません。また、権利譲渡後に著作者と著作権者が同一でなくなった場合などには、権利関係がややこしくなります。

文化庁へ現在の権利者を登録する事で、権利の流れを明確化できる他、法廷闘争となった場合に正当な権利者が自らの正当性を訴えるために利用することもできます。

ではみんなやればいいじゃない、という話になるのですが、問題点もあります。費用が高すぎるのです。1件につき1万8,000円です。

https://www.bunka.go.jp/seisaku/chosakuken/seidokaisetsu/toroku_seido/faq.html#faq03

また、この登録は原則として著作者と権利譲渡後の著作権者が共同で行う必要があります。ただし、文化庁が定める規定の中には、例外的に権利譲渡後の著作権者による単独申請も認めるとあります。そこで、文化庁登録時には費用負担はしないと定めることで、このリスクから逃れることができます。

手順8

  • 支払い・引き渡し方法

著作物譲渡の為の細かい条件をここで定めます。金額や期日、支払い・引き渡し方法も、できるだけ詳しく決めておいた方が、後々の為になりそうです。

手順9

  • 連絡手段

著作物を引き渡したのに支払いがない、連絡を取ろうと思ったら逃げられた…。こういった事を防ぎます。双方が必ず連絡の取れる連絡手段を記載します。万が一、ここで指定した連絡手段を用いても連絡が取れなくなった場合、虚偽記載をしたとして一方的に契約を解除し、以後の責務から解放されます。

この為、記載する連絡手段は必ず連絡の取れるものとしてください。そうでないと、自分が知らないうちに違反当事者だと認識されているかもしれません。

手順10

  • 指定裁判所

裁判所と聞くとどうしても身構えてしまいますが、ここでは万が一の法廷闘争となった場合に、どこで第一審を行うかを定めます。これは任意の裁判所を指定できるので、自分の家から近い場所を選んでおくとよいでしょう。

本当はここ(法廷)まで問題が響くことは避けたいのですが、「この案件は場合によっては裁判になりますが、それでも契約しますか?」と、相手にもそれなりの覚悟をもって契約に臨んでいただきたいものです。


入力後

最初に指定したメールアドレスに、作成した覚書を添付したメールが届きます。この覚書を、著作者と依頼者の双方で共有し、契約内容に問題がないか確認し、問題がなくなってから著作物のやり取りをしましょう。ちなみにこんなものが作成されます↓

サンプル

作った理由

親しい人からこんな話を聞いたのが理由です。「絵師さんで、Twitterのバナーに使う目的でイラストを依頼されて納品したけれど、お金を払われず逃げられた」「契約した相手が実は未成年で、支払いを求めた所、相手の保護者から未成年を理由にした契約の解除を強引に迫られた」

ちゃんとクリエイター・アーティストに収益が入るようにできないか、という目的で作りました。仮にも「契約」なんですから。契約の不履行は、債務不履行と一緒です。未成年のケースは論外として、「オンラインでのやり取りだから」とか「相手の顔が見えないから」とかと言った理由で、安易に依頼するような事のないようにして欲しいです。

契約書一枚あるだけで、身が引き締まるのなら安いもんです。

余計な費用などはかからないので、試しに一度使ってみてください。これで契約という細かいところまで関心を持って頂いて、皆さんが契約で困ることがなくなればそれが理想です。クリエイター・アーティストの皆さん、頑張りましょう。皆さんの作品が、正しい評価を受けますように。

ちなみに。

未成年者との契約については、いろいろ条件はありますが、一番大事なのは、相手が「詐術」を用いているかどうか。本来、未成年者は、まだ判断能力が発達しているとは言えない世代。そこで法律で保護をしようというわけですね。未成年者が結んだ契約は無効です、と。

ですが、「詐術」を用いていると判断できれば、別のようです。相手を騙してまで契約しようとしたケースでは法律で保護をする必要はないということです。

では、何をすれば「詐術」に該当するのか、が難しいところ。例えば、自分が未成年であることをただ黙秘していた、というだけでは「詐術」を働いたという事にはならないようです。積極的に相手を騙しに行き、結果的に相手が騙される必要があるようです。例としては、親の通帳と銀行印を持ち出して契約した、成人済みの他者の保険証を使って契約した、などですね。

仮に未成年の相手と契約をして、何かトラブルになった場合、そもそもこの契約が無効だったと見なされてしまい、損害賠償などは請求できないようです。相手が成人かどうかは慎重に確認しないといけませんね..。

契約書を用いて書面で確認するだけでは足りず、持っている保険証や運転免許証を提示してもらう必要があるかもしれません。そのうちスカウターみたいなのが発達して、スカウターを通して相手を見るだけで正確な年齢が分かればいいのですが…(笑)。

Leave a Reply

Your email address will not be published. Required fields are marked *